妊娠初期の症状や妊娠のサインとその対応
-チェックリストとセルフケア-
松浦知史 監修
妊娠おめでとうございます。ここでは妊娠初期の症状や妊娠の兆候や気を付けたいこと、お灸やツボ押しによるセルフケアなどご紹介します。
・監修いただいた先生のご紹介
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。埼玉医科大学東洋医学科、同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。地域医療における鍼灸師の資質向上のための情報発信やクリニックにおける鍼灸師の新たな雇用創出などにも力を注ぐ。
妊娠初期とは?
妊娠1~4ヶ月までを『妊娠初期』と呼びます。妊娠初期には人によってはちょっとした症状や体調の変化で妊娠の兆候に気がつく方もいらっしゃいます。また、体外受精を受けられた方は、病院で妊娠判定の検査を行い妊娠を確認します。妊娠を希望する人、あるいは妊娠した可能性がある人は妊娠初期から気をつけるべきことがあります。より良い出産をするため、お役に立てるよう妊婦さんにアドバイスをさせて頂きます。
妊娠初期に起こる症状や身体と心の変化
妊娠に伴う症状には個人差があり、妊娠していても症状が出ない場合などもあります。妊娠の可能性が少しでもある場合には、産婦人科を受診することをお勧めします。
\ CHECK /
✓ なんだか身体が熱っぽい
✓ つねに眠い、昼間に眠くなる
✓ わけもなくイライラする、落ち込みやすい
✓ 腹痛・下腹部痛
✓ 少量の出血
✓ 食欲がなくなった、胃がムカムカする
✓ おりものの量が増えた、色が変わった
✓ 便秘がち
✓ 基礎体温が3週間以上高温期が続いている
✓ 月経予定日を1週間過ぎても月経が来ない
妊婦さんがセルフケアをするにあたって、他のサイトのネットの情報を見て心配される方がいらっしゃるみたいなので、質問や疑問にお答えさせていただきます。
Q.妊娠中にツボを刺激してしまいました。あるサイトでは「〇〇のツボは妊娠中には押してはいけない」と記述がされていて不安です。
A.鍼灸の作用機序を考えて、ツボを押すことによって重篤な問題が生じてしまうことは考えにくいです。我々は、安全刺入深度(鍼をどのくらい刺していいのか)や禁忌のツボ(使ってはいけないツボ)なども把握した上で施術を行っています。ブログ(note)に詳しく書いてあるので、良かったら読んでみてください。
お灸の方法についても動画を参考にしてみてください。手順は以下のとおりです。
1.お灸を準備する(強さはソフトがおすすめ)
2.お灸の先端に火をつける
3.目的のツボに貼り付ける
4.あたたかく心地よい刺激で気がめぐる
5.最後にお灸は水にさらして火消しも忘れずに
それでは妊娠初期のサインとセルフケアについてご紹介していきます。
妊娠初期のサインとセルフケア
サイン-1
なんだか身体が熱っぽい
妊娠初期は「熱っぽさ」を感じます。熱を測ると微熱があり、人によっては風邪をひいたときと同じように感じるみたいです。これは大量に分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)の働きによるもので、基礎体温が上がり高温期が長く続くためです。これらの症状は妊娠中期には落ちつくと言われています。
気をつけるべきこと
妊娠初期に人によっては身体を冷やすために汗をかきやすくなります。汗をかいたら身体を冷やさないためにこまめにタオルで汗を拭ってください。
食生活では、涼性・寒性の食べ物の摂り過ぎには注意してください。東洋医学では身体に熱がこもっていると、食べ物などで身体を冷やしてバランスをとろうとするものです。生野菜(トマトやきゅうり、レタス、きゃべつなど)やフルーツ(特にスイカや梨、メロン、桃、柿など)、アイスや緑茶などを召し上がるときには注意が必要です。食べ過ぎてしまうと、胃腸が冷えてしまい内臓の働きや内臓免疫などが下がってしまい、かえって身体の熱っぽさが悪化したり、汗がとまらなくなったり、風邪をひきやすくなってしまいます。
お灸とツボ押しのポイント
身体に熱がこもってしまう、汗をかきやすい場合には、合谷(ごうこく)、復溜(ふくりゅう)、照海(しょうかい)にお灸やツボ押しをすると良いでしょう。合谷と復溜の組み合わせには、「滋陰清熱」といって陰液を補って身体の冷却システムを高めるような働きがあります。この組み合わせは汗をおさめるのに高い効果を発揮します。照海にも同様に「滋陰清熱」の働きがあるため、適宜追加すると良いでしょう。また、復溜と照海は『足の少陰腎経』に属する経穴であるため、内臓免疫やホルモンの分泌・自律神経などの調整にも関与しています。妊娠初期よりお灸やツボ押しをすることによって身体の急激な変化に対応できるようにセルフケアを行うことが望まれます。
サイン-2
つねに眠い、昼間に眠くなる
妊娠初期には、体温を上げて妊娠を継続させる働きのある黄体ホルモン(プロゲステロン)が増える時期です。このホルモンは眠気を強くする働きがあるため、「つねに眠い、昼間に眠くなる」といった症状が出てきます。睡眠不足ではないのに、いつも眠たいなら妊娠のサインかもしれません。
気をつけるべきこと
食生活では、「サイン-1」と同様に身体を冷やさないことが重要です。また、甘い物の摂り過ぎには注意してください。胃腸の働きは『脾胃』が主に担当していると東洋医学では言われています。脾胃は飲食物の消化やそこから栄養源を抽出する場所と考えられており、その栄養源(水穀の精微と東洋医学では呼びます)を肺に上輸し、全身に布散して内臓や手足、そして脳などを栄養していると考えられています。そのため、胃腸の働きが落ち、脳が十分に栄養されない清陽不昇(抽出された良い”気”がめぐらない現象)が起き、「つねに眠い、昼間に眠くなる」といった症状が出てきてしまいます。
睡眠は、できる限り決まった時間に眠るようにして下さい。
サイン-3
わけもなくイライラする・落ち込みやすい
妊娠初期にはホルモンバランスが急激に変化するので、情緒的に不安定な状態になります。感情のコントロールが難しく、ささいなことでイライラしたり、落ち込みやすくなります。妊娠中期になるとある程度落ち着いてくるとは言われていますが、妊娠初期からケアしておくことが重要です。
気をつけるべきこと
食生活では、ジャスミン茶やカモミール茶など、香りのよいものは精神安定作用があるため精神的にリラックスするので飲むと良いでしょう。しかし、緑茶やコーヒーには身体の熱をとって冷ます作用があるため、飲み過ぎには注意が必要です。また、緑茶やコーヒーに含まれるカフェインを多量に摂取すると自律神経を乱す原因にもなります。胃腸を冷やすと、清陽不昇となり気のめぐりが悪くなってしまいます。一方で、情緒が不安定なときには温性・熱性の食べ物の摂り過ぎにも注意してください。程よく摂られる分には胃腸の働きを活発にして身体も温まりますが、摂り過ぎると興奮しやすくなり、イライラや動悸、めまい、吹き出物などができてしまいます。温める食材として唐辛子や山椒、コショウ、生姜、八角、シナモンなどは有名ですよね。その他にニンニクやニラ、紫蘇、牛肉、鶏肉、羊肉、くるみ、カボチャなども身体を温める働きがありますので、これらの食材を程よく召し上がるのがポイントです。
お灸とツボ押しのポイント
情緒が不安定の場合には、太衝(たいしょう)、内関(ないかん)、神門(しんもん)にお灸やツボ押しをすると良いでしょう。太衝には「疏肝理気・降逆鎮衝」といって興奮してしまった自律神経を是正し、気血を手足末端に通わせる働きがあります。内関には「調気開鬱・和胃降逆」といって胸に溜まってしまった気鬱(きうつ)を取り除き、緊張によってうまく働かなくなってしまった胃腸の働きを調節してくれます。神門には「安神定志・清熱寧心」といって心律を調整し、胸に溜まってしまった熱を取り除き精神を安定させる働きがあります。
サイン-4
腹痛・下腹部痛
妊娠すると子宮は収縮を繰り返しながら大きくなっていきます。この子宮の生理的な収縮が痛みとして感じられることがあり、人によっては生理痛に似た痛みと言う方もいらっしゃいます。さらに妊娠初期には胃腸の働きも弱くなりやすく、お腹の張り感や便秘によって下腹部の痛みがでることもあります。これらの症状は安静にしていれば治まってくるはずですが、冷や汗がでるほど痛かったり、出血がある場合、いつもと違う痛みかたであれば病院を受診することをお勧めします。
気をつけるべきこと
食生活では、「サイン-1、2」と同様に身体を冷やさないこと、甘い物を取り過ぎないことが重要です。胃腸の働きを良くし、良い気を巡らせることによって「腹痛・下腹部痛」は治まってくるはずです。
お灸とツボ押しのポイント
腹痛・下腹部痛がある場合には、三陰交(さんいんこう)、帰来(きらい)、公孫(こうそん)にお灸やツボ押しをすると良いでしょう。三陰交に帰来を配すると「行気散寒・和血止痛」といって痛みの原因となる子宮の収縮を和らげ、痛みの増悪因子となる冷えをしっかり取り除いてくれます。また、三陰交は3本の陰経が交わるところであり、その三陰を調補し、精気を益し、血脈を和し、瘀結を散じ、経絡を通し、痛みを取り除く作用があります。公孫は三陰交と同様に脾経のツボですが、これらのツボは奇経衝脈(生殖器に直接影響を与える経絡のこと)の主治穴でもあるため、適宜追加すると良いでしょう。
サイン-5
少量の出血
受精卵が着床する際に、子宮内膜の血管を傷つけてしまうために起こる少量の出血を「着床出血」と言います。生理予定日前後に少量の出血が1~3日間ほど続いたら、この着床出血かもしれません。着床出血は4人に1人程度起こると言われており、人によって出血の量や色などもさまざまです。出血量がどんどん増える場合や、月経時2日目のような多めの出血になった場合、腹痛を伴う場合には病院を受診することをお勧めします。
サイン-6
食欲がなくなった、胃がムカムカする
妊娠初期は胃腸の働きが弱くなりやすく、消化不良を起こして食欲がなくなることがあります。
気をつけるべきこと
食欲がないときには無理せずゆっくり食べたり、水分をしっかり摂ることを意識したほうが良いでしょう。食べられなくてもおなかの赤ちゃんは絨毛(じゅうもう)を通じて栄養をもらっているので大丈夫です。食べられるときに食べたいものを口にすると良いでしょう。この時期には梅干しや一口サイズのフルーツ、炭酸水などを常備している人が多いようです。リンゴやベリー系は身体を冷やしませんが、パイナップルやバナナ、グレープフルーツ、梨、すいか、柿などは身体の熱を取る作用があります。どうしても食べたいときには新鮮なものを召し上がるのが良いでしょう。ただ、冷凍庫でキンキンに冷やしたものはできる限り避けた方が良いかもしれません。
お灸とツボ押しのポイント
食欲がなくなった、胃がムカムカする場合には、足三里(あしさんり)、内関(ないかん)、公孫(こうそん)にお灸やツボ押しをすると良いでしょう。足三里には「扶土健中・調運昇降」といって胃腸の働きを良くし、消化不良の状態を改善させる作用があります。内関には「利膈和胃・降逆止嘔」といって胃のムカムカや吐き気にも効果があります。公孫には「健脾和胃・理中降逆」といって足三里と同様な作用があるので治療効果を高めることができます。
サイン-7
おりものの量が増えた、色が変わった
おりものの分泌にはエストロゲンというホルモンが関係しています。このホルモンは排卵期に最も多く、黄体期には減少します。そして妊娠するとこのホルモンの分泌量は増えるため、おりものの量が増加しやすくなります。また、妊娠初期にはおりものの色が変わり、人によっては酸っぱいようなニオイがすることもあるみたいです。この変化には個人差があるため、おりものの分泌量に変化のないような人もいます。
お灸とツボ押しのポイント
おりものの量が増えた、色が変わった場合には、東洋医学的には脾虚帯下か腎虚帯下かを判断する必要があります。脾虚帯下とは、胃腸の働きが落ちて身体の水分が停滞して任脈(にんみゃく)と帯脈(たいみゃく)いう経絡を損傷した時に発症します。また身体の水分が停滞すると湿が鬱して痰になると、痰と湿がお互いに結合するので、おりものの量は多く、白色で粘り気のあるものとなります。一方で、腎虚帯下とは、腎陽不足・命門火衰といって身体が冷えきってしまった状態になると、身体の水はけが悪くなり寒湿が内盛し、任脈と帯脈を損傷します。この場合は、量が多く白色で質は稀薄なおりもので、重症では水のような清冷なおりものとなります。
脾虚帯下の場合には、気海(きかい)、帯脈(たいみゃく)、足三里(あしさんり)、三陰交(さんいんこう)にお灸やツボ押しをすると良いでしょう。気海には「健脾益気・培元固本」といって胃腸の働きを良くし、帯下病の状態を改善させる作用があります。帯脈には「固任束帯」といっておりものの分泌量を調節することができます。これに足三里・三陰交を加えると「健脾燥湿・昇陽止帯」といって身体の水分が停滞してしまった状態を改善させ、気をめぐりを良くしておりものの分泌量を調節するように働きます。
腎虚帯下の場合には、関元(かんげん)、帯脈(たいみゃく)、陰陵泉(いんりょうせん)にお灸やツボ押しをすると良いでしょう。関元には「温腎壮陽・固摂任帯」といって腎を補って身体を温めるシステムを高め、損傷した任脈や帯脈を改善させる作用があります。帯脈は前述したとおりおりものの分泌量を調節してくれます。陰陵泉には「健脾益気・除湿止帯」といって胃腸の働きを良くし、余剰な水分や湿邪などをさばいてくれる作用があります。
サイン-8
便秘がち
今までまったく便秘を経験したことのないような人でも便秘になることがあります。これは妊娠によってプロゲステロンというホルモンが増加するためです。このホルモンは消化管の収縮にも関与しており、消化管の収縮が抑制されることによって筋肉がゆるみ腸の働きが弱くなります。また、つわりによる食事内容の変化によって便秘を引き起こすこともあります。
気をつけるべきこと
食生活では、水分をしっかり摂ることを意識し、無理のない範囲で食べれるものを食べるようにしましょう。特に果実やにんじん、きゃべつなどの水様性食物繊維は腸内の善玉菌を増やしたり、便を柔らかくする作用があります。一方、根菜類やきのこ類、たけのこ、豆類などの不溶性食物繊維は便の量を増やして腸管を刺激し、腸の働きを活発にする作用があります。これらを積極的に摂るよう意識しましょう。また、ヨーグルトや納豆などの発酵食品には善玉菌が含まれるため、摂取することで腸内環境を整えることができます。
お灸とツボ押しのポイント
便秘がちな場合には、足三里(あしさんり)、天枢(てんすう)、合谷(ごうこく)にお灸やツボ押しをすると良いでしょう。足三里には「扶土健中・調運昇降」といって胃腸の働きを良くし、便秘の状態を改善させる作用があります。天枢には「理気和中」といって胃腸の気機を整えてくれるので便秘にも有効です。また、合谷は手の陽明大腸経の原穴でもあり、腸管機能を調整し、蠕動運動を促進することで、すぐれた「通腸大便」の作用を有します。一般的な便秘や習慣性便秘にも良効を発揮できます。